楽器の技術が倍のスピードで上がる方法とその理由

Twitterのアンケートで選ばれた「楽器の技術が身につくスピードが2倍に!?」と言う内容をご紹介します。

ジョンホプキンス大学の研究

今回紹介する研究は、86人の男女を対象にしたジョンホプキンス大学などの研究になります。

英語が得意な方、この実験のレポートを直接読みたい方はこちらからどうぞ。

まずはじめにお話したいことが楽器やスポーツは、成長の様子が数値化出来ないので、実験に向かないということです。

なのでよくテトリスのようなゲームや素早く対象をクリックしていくゲームのスコアを使って、どのように練習したら運動スキル(Motor skills)が効率よく成長できるのかを測る研究が、行なわれています。

そしてゲームのスコアが効率よく上がった方法=運動スキルが効率よく上がる方法=楽器やスポーツでも効率良い練習方法として使える。

という訳なのです。

それでは早速今回どんな実験が行われたのか説明していきましょう。

  1. 数日にわたりPCモニタ上のカーソルを動かすゲームを練習してもらいます。
  2. グループAの人は、全く同じ方法で何度もゲームをプレイ。
  3. グループBの人は、少しずつ変化を加えながらゲームをプレイ。

ただひたすら繰り返し練習するグループAと、少しずつ変化を加えながら練習したグループBの成長スピードを観察する実験です。

結果は、グループBも人たちが2倍ゲームのスピードも正確さも上がっていました。

少しの変化とは?また何故それだけで結果が大きく変わるのかということを説明していきます。

成長の秘密「再固定化」

まずここで記憶力の研究などでよく使われる「再固定化」について説明したいと思います。(専門的な話になります)

短期記憶を長期記憶にすることを「固定化」と言い、1度固定された記憶を、改めて思い出したりすることを「再固定化」と呼びます。

「再固定化」することが記憶を脳に強く定着する鍵だと言われていて、記憶の定着につながる理由は2つあるので解説していきましょう。

1、記憶がアップデートされるから

人は物事を思い出そうとすることで一度記憶が不安定になり、そこから再構築しています。

この説明だけだとイメージがわかないと思うのですが、今日あった面白い話を人に伝えようとして話をしているときに例えると、重要ではない部分を無意識に思い出せなかったり省略されることが「不安定になる」そして伝えるために1つずつ起こったことを自分の言葉に置き換えながら説明していることが「再構築」でイメージしてもらえるとわかりやすいかなと思いました。

もっと簡単にいうと自分に実際起こったことを、話すために分解しながら改めて自分の言葉に再構築しているという感じです。

そして記憶は再構築する際、既存の記憶に新たに得た経験を加えることでアップデートされるようです。

アップデートを絵で例えると、今と半年後では同じ猫の絵を書いたとしても、上達していたり、画風が変わったりするなど半年の経験が絵に変化として現れる感じとイメージしていただけるとわかりやすいのではないでしょうか。

2、思い出すということ自体が記憶を強化する。

これに関しては以前いつか紹介すると言った「検索学習」が結果を出していることなどから間違いない記憶術とされているのですが、思い出すことということが記憶する上で一番大事ということです。

勉強法でも、なんども書いて練習するよりテストを繰り返すことが効果的と言われています。

運動スキル実験の話に戻りましょう。

再固定化が運動スキル向上に

もう1度まとめると再固定化が記憶定着の助けをしてくれる2つの理由は、

  • 一度不安定になり、再構築される際アップデートされる。
  • そもそも思い出すことが記憶定着につながる。

でした。

ここで成績が2倍になったBグループのプレイ方法を振り返ってみましょう。

グループBは、毎回少しの変化を加えていました。

変化というのは大きなものではなく「使う指を変える」「力の入れ方を変える」等本当に小さな変化です。

何故小さな変化で結果に大きな変化が生まれたのでしょうか。

研究者は小さな変化を加えることで、ただの繰り返しではなくなったため練習するたびに「再構築」が起こり「アップデート」されたのではないかと考えました。

つまり「再固定化」が記憶を定着させる理由のひとつ、一度不安定になり再構築されアップデートされると同じことが、小さな変化を加えることで運動スキル取得のための練習でも起こったのではないかと考えられます。

なので「再固定化」が運動スキル向上に有効であり、小さな変化を加えることでスコアが上がったのであると結論づけられました。

ひたすら練習するのではなく、

繰り返し練習(繰り返す=動きの再現、思い出すことに)

小さな変化(変化を加えることで再構築され、なおかつアップデート)

を意識し練習すると「再固定化」が起こり、練習の効率がよくなるというわけです。

再固定化するための注意点

ただし注意点として、

  • 変化のレベルはあくまで少しだけにとどめるよう気をつける。
  • 今回の実験で、最初の練習から30分後に反復練習をおこなったグループには、運動スキルの向上が見られなかったことから小さな変化を加えるスパンは長めに取る。

ことが挙げられています。

以上のことから、僕なりにどのようにこの実験を活かし練習したら良いか提案します。

この実験を活かした練習方法

1、練習対象

この実験は、あくまで運動スキルを効率よく取得するためにはというものなので、

  • エチュードや練習曲
  • テクニカルな奏法
  • 難しいパッセージ

のような技術的な練習に活かすことで「再固定化」の恩恵を受けることが出来ると思います。

2、変化内容

練習に加える変化は、ほんの少しにすることがポイントです。

バイオリンの練習での少しの変化を例にあげると

「座って弾く」「指1本決めてひたすらその指を意識する」「弓の張り具合を変えてみる」「少し構えなど演奏に支障が出ない程度変えてみる」

といった変化が良いかと思います。

また小さい子には、日替わりで気をつけることを1つ保護者や先生があらかじめ約束してあげると良いと思います。

3、間隔

30分後に練習したのでは「再固定化」の恩恵を受けることが出来なかった。実験で言われているので小さな変化をどのタイミングで加えていくかはとても重要になります。

この実験では、翌日くらいが良いのではないかと言われていました。

なので、エチュードや難しいところを練習する際は、ソーシャルゲームのデイリーミッションのように「今日は、こんな変化を加えてこの部分の練習をしよう」と決めて練習に取り組むのが良いかなと思います。

まとめ

長くなったのでまとめます。

  • 練習に少しの変化を加えると2倍成長スピードが早くなります。
  • 理由は「再固定化」が起こるから。
  • ただし、小さな変化であることと、変化を加えるタイミングを気をつけよう。

ということでした。

生徒から教師、演奏家まで幅広く活用出来る「再固定化」を是非使ってみてください。

「講演奏庫」カテゴリーではこのような記事を更新していきます。

次回は、科学的に証明されてしまった危険な褒め方について記事にしたいと思います、お楽しみに。

バイオリン講演奏家 長又允希