古代ギリシャの聴こえない音楽を知っていますか?

練習方法や研究の紹介ばかりになっていたのでこの記事では「音楽史」の話をしていきたいと思います。

3種の音楽

古代ギリシャ人の音楽観がわかる面白い資料を紹介します。

それはボエティウスと言う人に書かれた「音楽綱要」と言う理論書です。

ボエティウスと言うのは、5〜6世紀に活躍したローマの哲学者でした。

その「音楽綱要」の中で音楽は3種類に分類されています。

それらの音楽は、今僕たちがイメージする音楽とは全く違うので1つ1つ紹介していきたいと思います。

宇宙の音楽

1つめに紹介するのは宇宙の音楽(musica mundana)です。

これは四季の変化や天体の運行を司る秩序のことをいっています。

また天体が動くことによって、人の耳には聴こえていないが音が発生していたのではないかと考えられていたそうです。

人体の音楽

2つめに紹介するのは、人体の音楽(musica humana)です。

これは、人体の音楽の調律が狂うと病気になったり性格が曲がるという考えです。

心身共にバランスが取れていて調子が良い時は、調律があっていると考えられていました。

道具の音楽

3つめに紹介するのは、道具の音楽(musica instrumentalist)です。

これは普段僕たちが思い浮かべる音楽のことです。

道具とは言うものの、楽器だけでなく人の声もこの音楽に含まれていて「音が聞こえる音楽」は全てこれに所属しているようです。

3種の音楽の上下関係

この3種の音楽は宇宙の音楽が1番上位のもので、道具の音楽が1番下位に見られていました。

なぜかと言うと古代ギリシャ人にとって肉体をコントロールする精神の方が上位のものと考えられていたので、肉体で聴く音楽より精神で聴く音楽の方が高度のものと考えられていたからです。

聴こえない音楽としてはジョンケージの「4分33秒」が有名ですが、あの曲は「無」を聴くより、演奏会場内外のさまざまな雑音、鳥の声、木々の揺れる音、会場のざわめきなどを聴くものとされているので「音楽綱要」の分類分けでは道具の音楽ではないかと思います。

音楽が今の形になるまでの様子を、改めて勉強してみると面白いと感じる話がたくさんあるので今後もちょくちょく紹介していくつもりです。

ちなみに高校、大学時代の音楽史の成績は良くありませんでした。

バイオリン講演奏家 長又 允希

アラフォーの方に最強の習い事紹介します。

今回は、「人生の満足度」「自己肯定感アップ」「体調までよくなる」良いことづくめの習い事が判明した研究を紹介します。

オックスフォード大学の研究

今回紹介するのは、135名のアラフォー男女を対象にしたオックスフォード大学の研究です。

この実験のために以下の習い事の中から好きなものを7ヶ月習える「中年向け習い事コース」が創設されました。

  • 合唱
  • 美術
  • 創作文芸

そして全コース終了後、メンタルと健康状態をチェックし習い事を始める前と後ではどのような変化があったか比較しました。

全ての習い事がプラスに!

その結果以下のようなことがわかりました。

  • 人生の満足度がアップ。
  • 自己肯定感が増した。
  • 体調までよくなった。
  • 中でも「合唱」に参加した人のメリットが大きかった。

新しいことを始めることで日々の生活が充実し満足度が上がったり、新しいことができるようになる事で自分の価値を感じ自己肯定感が増すことはなんとなく想像が付くかなと思います。

また体調が良くなる理由は、自己肯定感が増すことで日々の活動量が増したおかげではないかと考えられていました。

この記事では、何故「合唱」のメリットが大きかったのかと言うことに注目していきたいと思います。

人が幸せを感じる理由

この動画で紹介している研究を簡単に紹介します(是非動画も視聴してみてください)

どんな研究かと言うとハーバードの成人発達研究によるもので、なんと724人の参加者を75年追いかけ「人間の幸せにとって一体何が大切なのか」をまとめた研究です。

724人の75年を追いかけた研究とは、規模が大きすぎて初めて知った時は驚きました。

今回はこの研究の紹介がメインではないので結論だけ紹介すると、

「人間を幸せにするのは富や名声ではなく、良い人関係である」

との事です。

また今度この研究を詳しく紹介します。

合唱の話に戻りましょう。

音楽とオキシトシン

「オキシトシン」と呼ばれる脳内ホルモンをご存知でしょうか?

別名愛情ホルモンと言われていて、ハグをした時や性行為、授乳の間に分泌されたりします。

他にもオキシトシンは、コミュ力が上がったりすることから絆を深めるホルモンとしても有名で、外部摂取する為の点鼻薬や香水が売っているのも調べていて発見しました。

そんな愛情ホルモンオキシトシンですが、音楽で血液への分泌が促進されることが証明されています。

つまり音楽には絆や仲間意識を深める力があると言うことです。

スポーツ応援などで、踊ったり歌ったりしてしまうのもこのせいだと言われています。

何故合唱のメリットが大きいのか

  • 合唱が習い事から得られるメリットが一番大きい。
  • 人の幸せで一番大事になるのは人間関係。
  • 音楽は絆を深める効果がある。

と言う話をここまでしてきました。

この3つのことから、何故「合唱」が一番習い事のメリットが大きい理由がわかります。

それは合唱をする事で、実験の参加者同士の絆が深まったからです。

研究の中でも、グループの所属感が大きくなるほど、健康と幸福レベルがアップしたことが確認されました。

幸せに大きな影響を与える人間関係が「合唱」だと深まったため他の習い事より得られるメリットが大きかったと言うことでした。

是非何か新しい習い事を始めたいと言う方は、この記事を参考にしてください。

バイオリン講演奏家 長又允希

理想の先生は○○○○○な先生という研究

今日の記事は昨日の記事が大きく関わってきます。

まだ読んでいない方は、先にこちらをどうぞ。

理想の先生とは

前回の「音楽の才能」を調べた音楽心理学者ジョンスロボダ率いるチームは、楽器を習う際の「最初の指導者」がどのくらい音楽人生に影響を与えたかということを調査しました。

その調査で多くのプロレベルに達する音楽学習者の「最初の先生」に、ある共通点があることが判明します。

結論から言うと最初の先生が「楽しくフレンドリーな性格の持ち主」だったと言うことです。

先生の技能、知識等より性格が大事ということは驚きでした。

何故プロレベルまで達する音楽学習者の最初の先生が「楽しくフレンドリーな性格」なことが多いのかは前回の記事を読んだ方ならわかるのではないでしょうか。

何故フレンドリーな先生が良いのか

前回の記事で、良い成績を残している人ほどたくさんの時間練習に費やしていて、大事なのは才能ではなく練習であるという研究を紹介しました。

何故フレンドリーな先生が良いのかというと、最初の先生が楽しくフレンドリーな性格の方が子どもは楽器の練習に取り組み易くなるからです。

習いはじめの段階で子どもたちにとって1番の大切なことは「両親や大好きな先生が褒めたり喜んでくれる」だからフレンドリーな先生だと積極的に取り組むのではないかと言われています。

是非、子どもや生徒が何かできるようになった時しっかり褒めてあげてください。

逆効果な褒め方の記事も書いているので是非お読みください。

音楽の能力とは….?

前回と今回のまとめということで面白い研究をもう1つ紹介したいと思います。

2003年の調査で心理学者のスーザン・ハラムとヴェネッサ・プリンスによるものです。

どんな内容かというと音楽家100人以上と一般人100人以上に「音楽の能力は….」に続く言葉を考えてもらうものでした。

結果には、明確な違いが出ました。

音楽家の多数は「学び取るもの」「身につけるもの」と答え、

一般人の多くは「才能」「生まれつきのもの」「選ばれしもの」と答えたようです。

まとめ

最初に習う時大事になってくるのが、フレンドリーな先生かどうかということからもやはり上達する上で大事なのは「練習」だということがわかりました。

前回と今回で「練習」の大切さを証明する研究を紹介しましたが、いかがだったでしょうか。

今後、具体的な練習内容に関する記事を作成するため現在まとめ作業中です。

またリクエスト等ありましたらtwitterにお願いします。

バイオリン講演奏家 長又允希

「才能」に関する朗報と悲報

楽器に才能があるのかないのか問題はよく話題に上がりますが実際のところどうなのでしょうか。

今日と明日の話は繋がっていて、

前編「音楽に才能は、あるのか」

後編「理想の先生とは」

と言った形式になります。

1992年イギリスの研究

この研究は、1992年音楽心理学者のジョンスロボダ教授をはじめとするイギリスの学者チームによって行われました。

音楽をやっている様々なレベルの男女257人を対象にした研究です。

プロを目指し音大で日々練習している人から、数ヶ月で音楽をやめた人まで集められました。

そして集められた257人は以下の①〜⑤のグループにわけられます。

  1. コンクールで優秀な成績を納め難関音楽大学合格。プロになるための訓練を受けている学生。
  2. 音楽スキルは高いものの、コンクール等で優秀な成績を納めることが出来ず、難関音楽大学も合格することが出来なかった学生。
  3. 本格的に音楽を勉強し、音楽大学への進学を考えたがコンクールにも参加せず諦めた学生。
  4. 趣味で音楽をやっているが、周りも自分自身も音楽大学に行くレベルとは考えなかった人々。
  5. 楽器の勉強を数ヶ月で諦めた人々。

そして実験参加者本人と保護者にインタビューとイギリスで音楽を習う人ほぼ全員が受けると言われているグレード・システムの進級スピードを調査しました。

グレードシステムとは?

日本でいうと漢字検定や英語検定のようなもので、習字や空手を習っていた人には段数のようなものをイメージしていただければわかりやすいかなと思います。

グレードシステムは1級から8級まであり、8級が音大の入学条件になっていたりもするようです。

またグランドピアノの練習室の練習室は8級のみとなっている施設があるそうで面白いシステムだと思いました。

2015年バイオリン8級の課題曲一覧を参考までに載せておきます。

グレードシステムの進級スピード比較

ここから実際に進級スピードがどのように変化したのか比較していきますが、読んでるかたはどのように予測されるでしょうか?

やはり①のグループは才能に満ち溢れ、素晴らしい進級スピードで駆け上がっていったのでしょうか?

結果は、研究者たちの予想通りになり、グループ①の学生が楽器を習い始めて3年半後に、平均すると3級に合格していたのに対し、グループ③の学生は2級に合格と言った感じで、3年半の時点ですでに大きな差が出てしまっていました。

しかし研究者達は「才能が全て」という結論を出さずあることに注目します。

進級スピードと練習時間

今度は、グループごとに進級するまでに練習した時間を調査してみると面白いことがわかりました。

どのグループも1級から2級は平均200時間、6級から7級は平均800時間、初心者から8級に合格するまでは平均3000時間強で、どのグループも進級するまでにかかった練習時間はほぼ変わらなかったのです。

つまり簡単にいうと、

  • グループ①が進級スピードが早かったのは、1日に練習する量が多かったから。
  • グループ③の進級スピードが遅かったのは、1日に練習する量が少なかったから。

ということがわかりました。

練習時間の変化

ここでグループ①とグループ④の練習時間の変化を比較してみます。

習い始めて1年目、グループ①の学生の練習時間は1日30分でした。

そして4年目には平均して1日1時間以上に増えています。

グループ④の1年目の練習時間は1日15分でした。

そこから少しずつ練習時間が伸び、4年目にはなんと1日20分という結果になりました。

例外

もちろんこの数字は平均なので「ほんの一握りの例外」がいました。

中には平均の5分の1のスピードで進級していく学生もいたようです。

ただ面白いことが「ほんの一握りの例外」が全員①グループではなく、全てのグループにいたことです。

つまり特別早く進級できる学生もほんの少しいたが、だからと言ってグループ①に入れるわけでなく、所属するためには、努力するしかないということでした。

そのほかにも音大内で生徒を格付けして、どのような過ごし方をしていると成績がよかったのかという研究もあるのでまた今度紹介します。

あと注意すべきはただただ練習時間すれば良いというわけではないということです。

偉大なバイオリニスト「ヤッシャ・ハイフェッツ」はインタビューの中で

「練習のしすぎは、良いことではなく全く練習しないのと同じくらい悪いこと」

と言っています。

彼の練習時間は平均3時間だったようです。

今度集中力に関する研究と、バイオリニストの証言を照らし合わせた練習時間に関する記事も作成する予定なのでお待ちください。

練習内容についても、いくつか面白い研究を見つけたので後日紹介します。

朗報と悲報

タイトルの朗報とは、

「才能に満ち溢れたように見える人や、伝説の奏者と言われている人も特殊な才能を持っていたわけではない、成長スピードはどんな人も変わらない。」

悲報とは、

「才能を言い訳に使うことが出来ない、成長スピードはどんな人も変わらない。」

ということでした。

やるかやらないか、粘り強く頑張れるかかどうかが大事なのだと改めて考えさせられた研究でした。

僕も練習を頑張ろうと思います。

明日は今日の話を絡めながら「理想の先生とは」という記事を更新するのでお楽しみに。

バイオリン講演奏家 長又 允希

科学的に危険な褒め方をしていませんか?

アドラー心理学が一時期大変流行りました。

その中でアドラーは「人を褒めても叱ってもいけない」と言っています。

しかし子どもを褒めることの有効性は実験で証明されてますし、これを読んでいる方も褒めることの大切さは普段から感じていると思います。

ただ褒め方も一歩間違えると効果がないどころか、悪影響を及ぼすものがあることがわかる実験をある本で見つけました。

2種類の褒め方

これは思春期初期の子ども達数百人を対象にした実験です。

まず子ども達全員に難易度高めの知能テスト10 題をやってもらいました。

だいたいの生徒が同じような成績で、終わった後に教師は褒め言葉をかけました。

褒めるに当たって生徒を下記の2つのグループに分け、別の褒め方をします。

  • グループ A 能力を褒める「8 問正解。よくできたわ。頭がすごく良いのね」
  • グループ B 努力を褒める「8 問正解。よくできたわ。よく頑張ったのね」


というようにAでは有能というレッテルを張るような褒め方、Bでは難問を解こうとした努力のみを褒めるようにしました。

成績はまったく変わらないようグループ分けしたのですが、ここから2つのグループは大きな差が生まれていきます。

現れた変化

まずAの子ども達に次の練習問題を選ばせると簡単な問題ばかり選ぶようになりました。

子ども達は、よい成績だった=頭が良いと褒められたので、ボロを出して能力を疑われることを避けるようになったのです。

逆に 9割のBの子ども達は積極的に色々な問題にチャレンジしていくようになりました。


次に AB両グループの子ども全員になかなか解けない難問を出します。


Aのグループは解けないことで、自分は頭が悪いと思うようになり、難しい問題を解くことにも嫌気を感じていました。

また簡単な問題の時は全員楽しいと答えていたが、難問のあとはAのグループは頭がよいと言われる評価が覆る危機と考え少しも楽しくないと答えるようになります。


逆にBのグループは解けないことは当たり前であり、できなければもっと頑張るしかないと考え、より積極的に問題に取り組みました。

そして子ども達は難問も簡単な問題もとても楽しい作業と感じていたようです。

最終的なAB両グループの結果は、このようになりました。

  • Aグループ成績ダウン自信ダウンやさしい問題に取り組んでも回復せず
  • Bグループ成績アップ(難問に積極的に挑戦したことでスキルアップ)

簡単にまとめると能力を褒めると成績が下がり、努力を褒めると成績が上がったということになります。

Aグループに現れたもう1つの特徴

この実験には続きがあり、さらに残念な結果が出ています。

テスト後、「これから他の学校に行くので、その生徒にどんな問題が出たのか教えてあげてください」と用紙を配布しました。

その用紙には、自分の点数を記入する欄も作ってありました。

用紙を集めてみると、恐ろしいことがわかります。

Aグループの生徒の4割が、自分の成績を高めに書いていたのです。

頭が良いと言われただけで、成績も下がり、間違えたことや悪い成績を隠し、嘘をつくようになってしまったのは、なかなか驚きの結果でした。

実際に意識してみて

僕は、この研究を知ったのが夏頃で衝撃を受け、褒める時に気をつけるようになったのですが結構効果があるように感じています。

練習の取り組み方や、注意の仕方を褒めることで生徒の練習することで褒めてもらえるし、練習することが大事なんだなという当たり前のことが前より伝わったのかなと思いました。

また「耳が良い」「才能がある」「なかなかいきなり普通は出来ない」と安直な褒め方は普段からしていないつもりだったのですが、改めて気をつけてみると結構言っていたのだなと感じます。

まとめ

  • 能力を褒めたら、成績が下がり積極性が失われた。
  • 努力を褒めたら、成績が上がり積極性が増した。
  • 能力を褒められると、自分を賢く見せようと愚かな行為に走りやすい。

という結果になりました。

今回の実験はこの本の中で見つけました。

とても良い本なので是非読んでみてください。

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感想(4件)

いつか本自体の紹介記事も書くかもしれません。

明日も内容決めていませんが、何か更新します。

バイオリン講演奏家長又 允希

楽器の技術が倍のスピードで上がる方法とその理由

Twitterのアンケートで選ばれた「楽器の技術が身につくスピードが2倍に!?」と言う内容をご紹介します。

ジョンホプキンス大学の研究

今回紹介する研究は、86人の男女を対象にしたジョンホプキンス大学などの研究になります。

英語が得意な方、この実験のレポートを直接読みたい方はこちらからどうぞ。

まずはじめにお話したいことが楽器やスポーツは、成長の様子が数値化出来ないので、実験に向かないということです。

なのでよくテトリスのようなゲームや素早く対象をクリックしていくゲームのスコアを使って、どのように練習したら運動スキル(Motor skills)が効率よく成長できるのかを測る研究が、行なわれています。

そしてゲームのスコアが効率よく上がった方法=運動スキルが効率よく上がる方法=楽器やスポーツでも効率良い練習方法として使える。

という訳なのです。

それでは早速今回どんな実験が行われたのか説明していきましょう。

  1. 数日にわたりPCモニタ上のカーソルを動かすゲームを練習してもらいます。
  2. グループAの人は、全く同じ方法で何度もゲームをプレイ。
  3. グループBの人は、少しずつ変化を加えながらゲームをプレイ。

ただひたすら繰り返し練習するグループAと、少しずつ変化を加えながら練習したグループBの成長スピードを観察する実験です。

結果は、グループBも人たちが2倍ゲームのスピードも正確さも上がっていました。

少しの変化とは?また何故それだけで結果が大きく変わるのかということを説明していきます。

成長の秘密「再固定化」

まずここで記憶力の研究などでよく使われる「再固定化」について説明したいと思います。(専門的な話になります)

短期記憶を長期記憶にすることを「固定化」と言い、1度固定された記憶を、改めて思い出したりすることを「再固定化」と呼びます。

「再固定化」することが記憶を脳に強く定着する鍵だと言われていて、記憶の定着につながる理由は2つあるので解説していきましょう。

1、記憶がアップデートされるから

人は物事を思い出そうとすることで一度記憶が不安定になり、そこから再構築しています。

この説明だけだとイメージがわかないと思うのですが、今日あった面白い話を人に伝えようとして話をしているときに例えると、重要ではない部分を無意識に思い出せなかったり省略されることが「不安定になる」そして伝えるために1つずつ起こったことを自分の言葉に置き換えながら説明していることが「再構築」でイメージしてもらえるとわかりやすいかなと思いました。

もっと簡単にいうと自分に実際起こったことを、話すために分解しながら改めて自分の言葉に再構築しているという感じです。

そして記憶は再構築する際、既存の記憶に新たに得た経験を加えることでアップデートされるようです。

アップデートを絵で例えると、今と半年後では同じ猫の絵を書いたとしても、上達していたり、画風が変わったりするなど半年の経験が絵に変化として現れる感じとイメージしていただけるとわかりやすいのではないでしょうか。

2、思い出すということ自体が記憶を強化する。

これに関しては以前いつか紹介すると言った「検索学習」が結果を出していることなどから間違いない記憶術とされているのですが、思い出すことということが記憶する上で一番大事ということです。

勉強法でも、なんども書いて練習するよりテストを繰り返すことが効果的と言われています。

運動スキル実験の話に戻りましょう。

再固定化が運動スキル向上に

もう1度まとめると再固定化が記憶定着の助けをしてくれる2つの理由は、

  • 一度不安定になり、再構築される際アップデートされる。
  • そもそも思い出すことが記憶定着につながる。

でした。

ここで成績が2倍になったBグループのプレイ方法を振り返ってみましょう。

グループBは、毎回少しの変化を加えていました。

変化というのは大きなものではなく「使う指を変える」「力の入れ方を変える」等本当に小さな変化です。

何故小さな変化で結果に大きな変化が生まれたのでしょうか。

研究者は小さな変化を加えることで、ただの繰り返しではなくなったため練習するたびに「再構築」が起こり「アップデート」されたのではないかと考えました。

つまり「再固定化」が記憶を定着させる理由のひとつ、一度不安定になり再構築されアップデートされると同じことが、小さな変化を加えることで運動スキル取得のための練習でも起こったのではないかと考えられます。

なので「再固定化」が運動スキル向上に有効であり、小さな変化を加えることでスコアが上がったのであると結論づけられました。

ひたすら練習するのではなく、

繰り返し練習(繰り返す=動きの再現、思い出すことに)

小さな変化(変化を加えることで再構築され、なおかつアップデート)

を意識し練習すると「再固定化」が起こり、練習の効率がよくなるというわけです。

再固定化するための注意点

ただし注意点として、

  • 変化のレベルはあくまで少しだけにとどめるよう気をつける。
  • 今回の実験で、最初の練習から30分後に反復練習をおこなったグループには、運動スキルの向上が見られなかったことから小さな変化を加えるスパンは長めに取る。

ことが挙げられています。

以上のことから、僕なりにどのようにこの実験を活かし練習したら良いか提案します。

この実験を活かした練習方法

1、練習対象

この実験は、あくまで運動スキルを効率よく取得するためにはというものなので、

  • エチュードや練習曲
  • テクニカルな奏法
  • 難しいパッセージ

のような技術的な練習に活かすことで「再固定化」の恩恵を受けることが出来ると思います。

2、変化内容

練習に加える変化は、ほんの少しにすることがポイントです。

バイオリンの練習での少しの変化を例にあげると

「座って弾く」「指1本決めてひたすらその指を意識する」「弓の張り具合を変えてみる」「少し構えなど演奏に支障が出ない程度変えてみる」

といった変化が良いかと思います。

また小さい子には、日替わりで気をつけることを1つ保護者や先生があらかじめ約束してあげると良いと思います。

3、間隔

30分後に練習したのでは「再固定化」の恩恵を受けることが出来なかった。実験で言われているので小さな変化をどのタイミングで加えていくかはとても重要になります。

この実験では、翌日くらいが良いのではないかと言われていました。

なので、エチュードや難しいところを練習する際は、ソーシャルゲームのデイリーミッションのように「今日は、こんな変化を加えてこの部分の練習をしよう」と決めて練習に取り組むのが良いかなと思います。

まとめ

長くなったのでまとめます。

  • 練習に少しの変化を加えると2倍成長スピードが早くなります。
  • 理由は「再固定化」が起こるから。
  • ただし、小さな変化であることと、変化を加えるタイミングを気をつけよう。

ということでした。

生徒から教師、演奏家まで幅広く活用出来る「再固定化」を是非使ってみてください。

「講演奏庫」カテゴリーではこのような記事を更新していきます。

次回は、科学的に証明されてしまった危険な褒め方について記事にしたいと思います、お楽しみに。

バイオリン講演奏家 長又允希

「無料で読んで良いの?」と言われるブログにするために②

前回の記事では「オンラインレッスン室」に絞り、内容紹介しました。

今回は、読むだけで楽しんでいただける「講演奏庫」カテゴリの紹介をしていきたいと思います。

講演奏会と時間

毎月講演奏会の内容を考えるために本を大量購入したり、様々な論文に目を通す等して、かなりの時間とお金を費やします。

しかし「ゴゴさろん」では1時間程度しか、講演奏会を行うことが出来ません。

なので、泣く泣く話す事を諦めた話が、毎月蓄積されていきます。

また音楽に絡められず、披露することが出来ない話を多々ありました(お金を稼げる性格と特徴、仕事が82分早く終わる方法、科学的に正しい謝罪の仕方、結果の出る練習時間etc)

そして1番の問題が、人に教えたりしないため記憶に定着せず、僕の中で使える知識にならないのです。(この記事参照)

実際に講演奏会で話した内容はどんなところでもスラスラ話せますし、読んだだけの内容はしっかり準備しなくては、話せません。

そこで何か別の形で他人に自分の言葉で説明する方法は無いだろうかと考えていました。

ブログという答え

このブログで、話す事が出来なかった内容を記事にする事でメリットが、3つあります。

  • 僕の記憶に定着する。
  • 役立つ知識の倉庫になる。
  • 何か困っている人の助けになるかも。

1つめの記憶の定着に関しては、これまで書いた通りです。

2つめの知識の倉庫というのは、このカテゴリーの由来にもなっていますが、文字通りの意味です。

何かトークの内容や面白い話を知りたいなと思った時、この「講演奏庫」から自由に引き出して使って頂ければと思います。

3つめの記事の内容が助けになるかもというのは、ブログを始める1番大きなメリットかなと思います。

夏頃から色々勉強し始め「これを学生の頃に知っていれば….」と思う事が何度もありました。

しかし学生時代は、仕事やら、試験やら、合わせやら、単位やら、振り返ってみても、自分で勉強する時間はなかったかなと思います。

なので、読んでくださる方の役に立ちそうな知識を「講演奏庫」には貯めていきたいです。

まとめ

この「講演奏庫」には、読んでくださる方と自分自身のために役立つ知識を詰め込んでいきます。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

Twitterアンケートの結果「楽器の技術が2倍のスピードで上がる方法」を最初の講演奏庫記事にしたいと思います。

明日は、まだブログ紹介記事です。

バイオリン講演奏家 長又允希