今回紹介する論文は、腕や首や様々な長さが演奏にどのような影響や痛みをもたらすかという論文です。
※この記事では、論文の内容をざっくり紹介し、黄色い枠の中で私なりの要約や感想や意見を書いています。
論文 “Physical Characteristics and Pain Patterns of Skilled Violinists”
目的
- 熟練したバイオリニストの首と上肢の柔軟性および身体計測を行い、演奏に関連する痛みの有無との関連性を評価する。
仮説
- 特定の身体的特徴は、長年の演奏と練習量の関数として発達する可能性があり、身体計測変数は、これらの奏者の報告された痛みに関連している可能性がある。
方法
- 対象:大学とプロのオーケストラから募集した32人のバイオリニスト(男性9人、女性23人、平均年齢27歳、平均演奏歴20年)。
- 手順:
- 理学療法士が、頸椎と両上肢のさまざまな身体的寸法を測定。
- デュアルデジタル傾斜計を使用して、胸椎後弯症の程度の変化を測定。
- 頸椎可動域計器(CROM)を使用して、楽器上の頸椎可動域を測定。
- 年齢、演奏年数、演奏に関連する痛みの履歴、身体活動レベル、教育的背景を記載したアンケートに回答。
- 痛みの部位、痛みの性質、痛みの期間、過去の重要な痛みのエピソードを詳しく記入した身体図を作成。
- 現在の痛みの重症度を0〜3の段階で報告(0:痛みなし、1:1か月未満の急性痛、2:1〜3か月の痛み、3:3か月以上の痛み)。
結果
- 左手の手首の屈曲・伸展、親指と小指の間の手のひらの幅、小指の付け根と指先の間隔は、右手よりも有意に大きかった。これは長年の演奏による適応と考えられる。
- 演奏に関連する痛みは、参加者の88%が経験したことがあると報告。
- 痛みは、前腕、胸椎、右上肢、頸椎、腰椎の順に多く報告された。
- 回帰分析の結果、胸椎の痛み、腰椎の痛み、右腕の痛みは、それぞれ以下の式で有意に予測できることがわかった。
- 右腕の痛み = 4.34 + 0.50 * 右手のひらの幅(人差し指と小指の間) – 0.44 * 右の前腕の長さ
- 胸椎の痛み = 10.87 + 0.31 * バイオリン演奏中の左頸椎側屈 – 0.49 * 右の前腕の長さ
- 腰椎の痛み = 3.84 – 0.40 * 首の前側の長さ
つまり、
右腕の痛みは、手のひらの幅(右手のひらの幅が広くなると、弓を持つ際に指を広げる必要があり、より大きな負担がかかる)と前腕の長さ(前腕が短い場合、弓の先端まで届かせるために、肘を伸ばしたり、肩をより動かす必要が生じる)この2つが痛みの原因になるということです。
胸椎の痛みは、左頸椎側屈(バイオリンを構える際、左側に首を傾けます。この角度が大きくなると、胸椎に負担がかかり、痛みにつながる)と右の前腕の長さ(右の前腕が短い場合、弓を操作するために、身体全体でバランスを取ろうとして、胸椎に負担をかける姿勢になる可能性がある)の2つが原因。
腰椎の痛みは首の前側の長さ(首の前側が短い人は、バイオリンを支えるために、腰を反らせるなど、腰椎に負担をかける姿勢になりやすい)原因となるそうです。
考察
- 左手に見られる身体計測値の違いは、長年の練習への適応を示唆している。
- 右腕の痛みは、身体的特徴、特に腕の長さに関連しており、演奏中の姿勢やテクニックに影響を与える可能性がある。
- 胸椎の痛みは、右腕の負担を軽減するために代償的な動きをすることによって生じている可能性がある。
- 首の長さは、バイオリンを安定させるための姿勢に影響を与えるため、腰痛と関連している可能性がある。
結論
- バイオリンの演奏を長年続けることで、身体的適応が起こる。特に左手首と手の変数は、右手よりも有意に広い可動域を示した。
- 左手の身体計測値は、この研究で調査された演奏者の痛みの発症とは関連していなかったが、右腕の身体的寸法は、潜在的な傷害リスクに役割を果たしているようである。
- 楽器のセッティングや演奏方法を個々の奏者の身体的特徴に合わせて調整することで、演奏に関連する痛みを予防できる可能性がある。
論文を読んでの感想
バイオリンの演奏をするうえで「身体は人それぞれ」といいますが、具体的にどこがどのように影響するかはなんとなくでしか知らなかったので、数値としてしれたのは面白かったです。