バイオリンのレッスンしていて「肩が痛い」という生徒はたくさんいます。
その度に、構え方を修正したり、ケア方法をお伝えしたりします。
今回は、何故痛みが発生してしまうのか、そして対策があるのか、科学的知見を調べてみようと思い論文を探してみました。
今日紹介する研究は、西ワシントン大学の研究です。
※論文の内容を紹介し、黄色い枠の中で私なりの要約や感想や意見を書いています。
弦の位置と肩甲骨の動きの関係を調査
本研究では、演奏する弦の位置によって、バイオリン奏者の右肩甲骨の動き方がどのように異なるのかを調査しました。
実験内容
- 対象者:過去1年以内に右肩の手術や重度の怪我、過去2ヶ月以内に右肩の痛みがない、5年以上バイオリンを演奏している経験豊富な大学生5名(男性1名、女性4名)
- 計測方法:胸骨、上腕骨(三角筋粗面)、肩甲骨棘突起に運動センサーを取り付け、肩甲骨の動きを三次元的に計測しました。
- 演奏課題:
- 楽曲1:低い音程のG弦のみで演奏する課題(条件A)
- 楽曲2:高い音程のE弦のみで演奏する課題(条件B)
- 楽曲3:低い音程と高い音程の両方を含む、弦の移動を伴う課題(条件C)
- データ分析:各課題における肩甲骨の上方回旋、下方回旋、前方傾斜、後方傾斜、肩甲上腕関節の挙上角度を比較しました。
簡単にいうと、高い弦(E線)、低い弦(G線)で肩の位置がどんな感じに変わっていて、痛みが生じるのかという研究です。
結果
- 楽曲1(G弦)と楽曲2(E弦)を比較すると、下方回旋、前方傾斜、肩甲上腕関節の挙上角度に有意な差が見られました(p<0.05)。
- E弦演奏時の方が、肩甲骨は下方回旋(約16度)し、前方傾斜(約-15度)していることがわかりました。
- 肩甲上腕関節の挙上角度は、G弦演奏時の方が有意に大きくなりました(最小角度:約61度、最大角度:約81度)。
- 楽曲1(G弦)と楽曲3の低い音程部分(C1)、楽曲2(E弦)と楽曲3の高い音程部分(C2)の間には、肩甲骨の動きに有意な差は見られませんでした(p>0.05)。
- 弦の位置が変化するスピードが、肩甲骨の動きに大きな影響を与えないことが示唆されました。
つまり肩甲骨は低い線(G線)だけを弾いてる時は肩と腕があがり、高い線(E線)だけを弾いてる時は下に回って、前に向かって傾いてました。
しかし、両方を使う曲では、どちらの弦を引いている時にも、肩甲骨の動きが偏ることがなかったようです。
論文内の考察
今回の結果から、経験豊富なバイオリン奏者において、低い弦を演奏する際には肩甲骨は上方回旋し、高い弦を演奏する際には下方回旋し、前方傾斜することがわかりました。
長時間の練習で肩が丸まった姿勢で演奏する傾向を持つ奏者が多いという観察結果から、高い弦の演奏時(腕を下げた状態)の前方傾斜は、大胸筋の硬直が原因である可能性があります。大胸筋の硬直は、特に腕を上げる動作において、肩甲上腕関節の正常な動きを阻害することが知られています。
今回の研究では、弦の位置の変化スピードが肩甲骨の動きに有意な影響を与えないことが示唆されましたが、これは少数の経験豊富な奏者を対象とした結果であり、更なる研究が必要です。
上にも書いたように、どの弦を弾いているのかで肩甲骨の位置が変わるということがわかりました。
高い弦を弾く時の肩甲骨の前傾が、演奏時の背中がまるまる原因だそうです。
なぜ前傾するのかというと大胸筋の硬直に原因があります。
基本的にバイオリンはA線E線の位置に弓がいることが多いので、背中が丸くなってしまう人が多いのかもしれません。
論文を読んで一言
基本、左肩や腕に痛みを覚える人が多いので、読むか迷いましたが、どの弦を弾いているかで、肩甲骨の位置がどのように変わるのかということや、高い弦を演奏している時の肩甲骨の位置が大胸筋のせいで前傾し、背中がまるまるというのは今後のレッスンで役に立ちそうだなと思いました。