楽器に才能があるのかないのか問題はよく話題に上がりますが実際のところどうなのでしょうか。
今日と明日の話は繋がっていて、
前編「音楽に才能は、あるのか」
後編「理想の先生とは」
と言った形式になります。
1992年イギリスの研究
この研究は、1992年音楽心理学者のジョンスロボダ教授をはじめとするイギリスの学者チームによって行われました。
音楽をやっている様々なレベルの男女257人を対象にした研究です。
プロを目指し音大で日々練習している人から、数ヶ月で音楽をやめた人まで集められました。
そして集められた257人は以下の①〜⑤のグループにわけられます。
- コンクールで優秀な成績を納め難関音楽大学合格。プロになるための訓練を受けている学生。
- 音楽スキルは高いものの、コンクール等で優秀な成績を納めることが出来ず、難関音楽大学も合格することが出来なかった学生。
- 本格的に音楽を勉強し、音楽大学への進学を考えたがコンクールにも参加せず諦めた学生。
- 趣味で音楽をやっているが、周りも自分自身も音楽大学に行くレベルとは考えなかった人々。
- 楽器の勉強を数ヶ月で諦めた人々。
そして実験参加者本人と保護者にインタビューとイギリスで音楽を習う人ほぼ全員が受けると言われているグレード・システムの進級スピードを調査しました。
グレードシステムとは?
日本でいうと漢字検定や英語検定のようなもので、習字や空手を習っていた人には段数のようなものをイメージしていただければわかりやすいかなと思います。
グレードシステムは1級から8級まであり、8級が音大の入学条件になっていたりもするようです。
またグランドピアノの練習室の練習室は8級のみとなっている施設があるそうで面白いシステムだと思いました。
2015年バイオリン8級の課題曲一覧を参考までに載せておきます。
グレードシステムの進級スピード比較
ここから実際に進級スピードがどのように変化したのか比較していきますが、読んでるかたはどのように予測されるでしょうか?
やはり①のグループは才能に満ち溢れ、素晴らしい進級スピードで駆け上がっていったのでしょうか?
結果は、研究者たちの予想通りになり、グループ①の学生が楽器を習い始めて3年半後に、平均すると3級に合格していたのに対し、グループ③の学生は2級に合格と言った感じで、3年半の時点ですでに大きな差が出てしまっていました。
しかし研究者達は「才能が全て」という結論を出さずあることに注目します。
進級スピードと練習時間
今度は、グループごとに進級するまでに練習した時間を調査してみると面白いことがわかりました。
どのグループも1級から2級は平均200時間、6級から7級は平均800時間、初心者から8級に合格するまでは平均3000時間強で、どのグループも進級するまでにかかった練習時間はほぼ変わらなかったのです。
つまり簡単にいうと、
- グループ①が進級スピードが早かったのは、1日に練習する量が多かったから。
- グループ③の進級スピードが遅かったのは、1日に練習する量が少なかったから。
ということがわかりました。
練習時間の変化
ここでグループ①とグループ④の練習時間の変化を比較してみます。
習い始めて1年目、グループ①の学生の練習時間は1日30分でした。
そして4年目には平均して1日1時間以上に増えています。
グループ④の1年目の練習時間は1日15分でした。
そこから少しずつ練習時間が伸び、4年目にはなんと1日20分という結果になりました。
例外
もちろんこの数字は平均なので「ほんの一握りの例外」がいました。
中には平均の5分の1のスピードで進級していく学生もいたようです。
ただ面白いことが「ほんの一握りの例外」が全員①グループではなく、全てのグループにいたことです。
つまり特別早く進級できる学生もほんの少しいたが、だからと言ってグループ①に入れるわけでなく、所属するためには、努力するしかないということでした。
そのほかにも音大内で生徒を格付けして、どのような過ごし方をしていると成績がよかったのかという研究もあるのでまた今度紹介します。
あと注意すべきはただただ練習時間すれば良いというわけではないということです。
偉大なバイオリニスト「ヤッシャ・ハイフェッツ」はインタビューの中で
「練習のしすぎは、良いことではなく全く練習しないのと同じくらい悪いこと」
と言っています。
彼の練習時間は平均3時間だったようです。
今度集中力に関する研究と、バイオリニストの証言を照らし合わせた練習時間に関する記事も作成する予定なのでお待ちください。
練習内容についても、いくつか面白い研究を見つけたので後日紹介します。
朗報と悲報
タイトルの朗報とは、
「才能に満ち溢れたように見える人や、伝説の奏者と言われている人も特殊な才能を持っていたわけではない、成長スピードはどんな人も変わらない。」
悲報とは、
「才能を言い訳に使うことが出来ない、成長スピードはどんな人も変わらない。」
ということでした。
やるかやらないか、粘り強く頑張れるかかどうかが大事なのだと改めて考えさせられた研究でした。
僕も練習を頑張ろうと思います。
明日は今日の話を絡めながら「理想の先生とは」という記事を更新するのでお楽しみに。
バイオリン講演奏家 長又 允希